歩美と小湊鐵道 2001.09.29

テレビで、とても古い駅舎を見た。
もろ私好みの、木造で枯れた雰囲気を持つものだ。たしか、NHKで夕方やっている子供向け番組の中だったと思う。一緒に映っていた車輌は、国鉄キハ20に似ていながらもへッドライトが2つの、いわゆる「京成スタイル」、これは間違いなく小湊鐵道だ。
・・・前置きが長くなったが、かようの理由により小湊鐵道へ行きたくなり、9月最後の土曜日に早起きして出かける。もちろん、もうすぐ5歳の長女・歩美も一緒だ。

2001/09/29(Sa)
朝4:20に起きる。シャワーを浴びようかと思ったが、近所迷惑だし、だいいち寒いのでパス。
歩美を起こし、西馬込5:00発の始発電車で出発する。
新橋で乗り換え、東京駅では朝食を買って佐倉行快速に乗りこむ。グリーン回数券を持っているので、グリーン車の2階に乗りこむ。歩美はこれに乗れるとご機嫌だ。小さいうちから贅沢させ過ぎた。

朝食の弁当を二人で食べ、千葉で君津行きに乗り換えて五井に6:56着。小湊鐵道のホームヘ行き、階段下の事務室でフリーきっぷを買う。
全線乗り放題で¥1,700也。普通にきっぷを買って終点の上総中野まで乗り通すと¥1,370かかることを考えると、かなりお得な価格設定といえる。
ホームにたたずむ2輌編成の古いディーぜルカーに乗る。ドアが鋼板プレスで成型されており、時代を感じさせる。

五井駅

歩美は毎度恒例、お菓子せがみ大会ぃーーー。今日もお菓子は買う気がない事を伝えると、おとなしくラムネ菓子を食べている。最近あまり欲しがらなくなった気がする。
上総三又で下車する。今日は小湊鉄道18駅すべて下車するつもりでいるが、五井を別にすればここが今日の目的スタート地点となる。
片面ホームに簡素な待合室のみがある上総三又だが、その待合室が妙に新しい。事前に仕入れた情報によれば、古い待合室は今年初めに焼失し、5月に再建したらしい。
地方の無人駅で、高校生のイタズラと思われるライターの焦げ跡をよく見かけるが、警察をはじめとした当局はもっと厳格に取り締まるべきだ。
戻って海士有木(あまありき)。ホーム上屋の側面(妻面)に、ギザギザに配置された板が並んでいる。東海道線の沼津駅ホームにも同様の飾りがあるのを見たことがあるが、駅以外ではあまり見かけない。鉄道駅独特のものなのだろうか。
続いて上総山田に下車する。ここも古い駅舎が健在だ。さっきから、背中のリュックに入っているお菓子が気になって仕方がない歩美。10時まではあげないつもりだ。
上総牛久下車。沿線ではかなり開けている方で、半数の列車がここで折返しとなる。高校が近いのか、大勢の高校生がゾロゾロと歩いてゆく。今日は第五土曜日、休みではないのだ。
戻って馬立で下車する。牛久の隣が馬立とは、何か関係があるのだろうか。
ここから隣の光風台まで歩くつもりでいたのだが、午後に月崎−飯給も歩く予定なので体力温存、駅前でヒマそうに雑談している運転手に声をかけ、タクシーに乗る。歩美はタクシーも大好きで、運転手に声をかけて自分の身の上を話している。グリーン車にタクシーが好きとは・・・。
狭い道を怖いほど飛ばし、5分ほどで光風台着、¥740。
昭和51年に開設されたこの駅は、まわりこそ何もないが遠く離れた丘の上に団地が造成されているのが見え、駅前の由来はあの団地だろうと容易に想像できる。
駅はさすがに味気ない鉄骨造りで、周辺の駅がかなりレトロな雰囲気を醸し出している中で異質に映る。
入場券を買ったところ、無造作に折り曲げ、ハサミを入れた状態で渡された。些細な事だし、入場券の意味を考えればそれでも問題はないのかもしれないが、上総山田ではていねいに切符箱から取り出しハサミは入れるかどうか聞いてくれた。『できることはやる』姿勢がこの駅には感じられない。やってることが券売機と変わらないようでは、リストラされてしまうのでは?駅員さん。
上総村上下車。歩美がトイレに行きたいというので、とても古い駅のトイレに入ると、至るところに貼り紙が。
「便所掃除で金をもらっていると近所の人に馬鹿にされ・・・きれいに使ってください。頼みます」まで書いてあるとさすがに異様で、それほどまでにマナーが悪いのかと駅員さんに同情してしまう。

下り列車に乗りこむ。進むほどに客が減る。養老渓谷で大半が下車、私たちも下車する。折り返し列車まで30分ほど時間があるので、近くの渓谷に架かる橋まで往復してみる。
駅裏へ出て、田舎の匂い漂う道を進むと、無骨な鉄橋が現れた。結構高いところに架かっており、見晴らしがよい。後で知ったのだが、紅葉の季節はスケッチする人が大勢この橋を訪れるらしい。歩美は足がすくんで、欄干につかまっていられない。
窓が開く! かけっこしながら駅へ戻り、やってきた列車で折り返す。歩美は、乗り合わせたお爺さんに飴をもらえ、これまたえらく機嫌がよい。飴をほおばりニコニコしながらちょっかいを出してくる。
上総川間で下車。たんぼの中の無人駅で、ちょうど下校時刻なのか高校生が集まってくる。駅裏の農道では、アクセルミュージックの練習をしている。なかなか上手だ。歩美も面白がって口でまねしている。
折り返しの列車に乗る。行楽客が多く、ビールの缶が転がっていてできあがっちゃっている人が多い。・・・昼間から、いいなぁ。
向かい側に座っている女の人の様子がおかしい。いやにそわそわして落ち着かない。どうやら、トイレに行きたいようだ。残念ながら小湊鉄道の車両にはトイレがなく、上総牛久から先は1閉塞なので行き違いもない。降りるらしい駅は、終点のひとつ手前、養老渓谷だ。
周りの友人が茶々を入れて気を紛らわそうとしているが、だんだん笑顔がなくなってくる。・・・見ていてつらい。
上総大久保で下車。この次の駅が養老渓谷だ。最悪の結果にならないことを願って・・・。
駅前に駐在所がある。駐在さんはパトロール中のようだが、黒猫が机の上に上がりこっちを見ている。番猫だ。
近くの雑貨屋さんで昼食のパンを買う。紅葉を見に来たのかと聞かれ、まさか「駅に降りにきた」とは言えないので言葉を濁していると、「まだ早いからねー」やら「失敗したねー」やらと勝手に納得していただけた。
駅へ戻る途中、さっきの駐在所を見ると、猫が三毛猫に代わっている!何匹飼っているのだろう?
小学校が近く、列車で通学するのだろうか、駅がにぎやかだ。
戻って上総鶴舞。無人だが、古い駅舎がきれいに整備されて残っている。ここは「関東駅100選」に選ばれた駅だ。そのせいか、何かの撮影を行っている。監督していると思しき小湊鉄道の社員が横柄で、鉄道の旅客を厄介者扱いしている。感じが悪い。撮影クルーは心得ていて、我々に謝っている。なんだかカラオケの画像撮影のように見える。

トンネル 戻って月崎。以前、車で来た時とあまり変わっていない。ここから隣の飯給まで歩く。しばらくして、手堀りのようなトンネルがあるのを見つけた。面白そうなので往復してみる。寺への参道らしいが、あまり車や人の通った形跡がなく、不気味。地層がよくわかり、化石でも見つかればより面白いのだが。
ザウルスに入れておいた地図を頼りに進み、そろそろ飯給駅が見えるかな?という所まで来たが、駅はおろか線路も見えない。農作業をしている方に聞いてみると、どうやら曲がる所を間違えたらしい。来た道を途中まで引き返し、改めて教わった道を進む。
1時間はたっぷり歩いて飯給着。歩美は見るからに疲れた表情をしている。約5Km、4才児としては限界にせまる距離だったに達いない。飲み物を買ってやり、しばし二人で休憩。
やってきた上り列車に乗り、上総久保下車。水田が目の前に広がる。JR久留里線に似た雰囲気の駅があったような気がする。近いから似てくるのかな?

智美?里見! 折り返し里見下車。次女・智美と同名(字違い)の駅だ。近隣では数少ない有人駅で、3年前までは交換も行っていたようだ。確かに、1996年に初めてこの鉄道を訪れた時は、この駅で交換待ちのため数分間停車した覚えがある。
突然、歩美が何か言った。
「おしっこ・・・。」
は?
「おしっこもれちゃった・・・。」
・・・見れば、股間から水が流れ落ちている。「我慢出来なかった」のではなく、「気付かなかった」らしい。子供は時々こういうことがあるらしいが・・・初めて見た。
幸いにも、今日はズボンもパンツも靴下も替えがあるので、全て替えさせる。やれやれ。
戻って高滝下車。ここでも歩美はトイレに行きたくなり、恐ろしく汚い大便所で用を足した。私でも尻込みするようなトイレでだ。たくましくなった。
ここは無人化されてかなり経っているようで、駅舎がけっこう痛んでいる。いつごろまで使われていたのか、向かい側のホームも風化が激しい。また、駅構内にバラスト(線路脇の砂利)がないに等しい。そのため、乗り心地が極端に悪い。
上総中野行に乗る。末端の養老渓谷−上総中野間は、一日に6往復ほどしか列車がないが、地元客のほとんどは養老渓谷までに降りてしまい、乗っているのは行楽客ばかりだ。列車が少ないのもうなずける。

上総中野にはけっこう人がいて驚いた。大原からのいすみ鉄道の列車はまだ着いていないのに、だ。人家がたくさんあり、バスの発着もあるが、これはいすみ鉄道側からの人ロ流動が主で、小湊鉄道とは無緑と考えられる。
4人の客を乗せていすみ鉄道の大原行は上総中野を後にする。土曜の夕方の上り列車としても、寂しい車内だ。歩美は最後のお菓子、べビースターラーメンに夢中。
大多喜で7分停車。もうすっかり日が暮れているので、駅前には出ず車内で過ごす。疲れたのだろうか、いつの間にか歩美は眠りに落ちている。・・・よだれが出てる、出てる。
大原から東京まで特急を使う。100Kmギリギリなのでグリーン車を利用する。JRのグリーン料金はちょっと妙で、100Kmまでが¥1,240で200Kmまでだと¥2,670になる。つまり、100Kmまでなら指定席(¥510)に¥730加えるだけでグリーン車が利用できるのだ。100Kmを超えるとお得感はなくなるが。
そのグリーン車はガラガラ。歩美はさっそく夢の中・・・。それにしても安っぽいグリーン車だ。快速のそれと大差ないのでは?カーブで椅子がガタつくし。それに、ゴルファーが何度もグリーン車を通り抜けていく。大きな荷物を持っているので、はっきり言って迷惑だ。
車内販売がなかなか来ず、大網を過ぎてようやく廻ってきた。弁当を買おうとしたが、歩美は眠りこけていて起きない。仕方なく、一つだけ弁当を買って一人で平らげる。歩美には後でおにぎりでも買ってやろう。
夜の京葉線は景色のよい路線の一つだと思う。駅が近付くたび、整然と並んだ街灯とネオンが車窓を彩る。
東京では長い長い通路を通り、約10分で山手線へ。途中、夕食をとっていない歩美におにぎりを買う。新橋で浅草線に乗り換え、おなかが減ったらしい歩美に地下鉄ホームでおにぎりをほおばらせたら、「おしっこ。」。トイレヘ行ってホームヘ戻ると、今西馬込行が出たばかり。どっと疲れが出た。
家へ着くと20:30、お疲れさまでした。