黒部峡谷・富山地鉄 2002.05.02〜04

妻の両親が連休頭の5/3に来ることになった。そんなとき、妻からこんな話を持ちかけられた。
「出かけてきてもいーよー」
願ってもない話! 別に妻の両親と仲が悪い訳ではないのだが、この申し出に乗り、夜行出発の夜行帰りで富山へ出かけることにした。目指すは未乗の富山地方鉄道と黒部峡谷鉄道だ。今回は一人で行く。孫がいないのでは妻の両親が寂しがるかもしれないし。


2002/05/02 (Th)
定時過ぎの五時半に仕事を終え、家路につく。今晩の夜行寝台特急「北陸」に乗って出かける予定だが、発車は23:03なので余裕がある。夕食のあと子供を風呂にいれて寝かしつけていると、今回は長女の歩美とは一緒に出かけないので、さみしいのか少し泣かれる。
21:30に家を出て上野へ向かう。少し早いが、上野駅にできたらしいラーメン屋「一蘭」に寄って行こうと思っている。
新橋で山手線に乗り換える。新型車両が運転を開始していて、見慣れない電車にちょっと驚く。
上野に22:20着。そのラーメン屋を探すのに手間取り、たどり着いたのは22:35、行列になっている。すっぱりあきらめて、隣のおかゆ屋さんに入る。なかなか旨く、夜行に乗る前はひいきにしたい感じだ。
今日は「富山往復きっぷ」を使う。ゴールデンウィーク中も使用可能な、東京から魚津〜高岡を往復するきっぷで、B寝台車を利用可能なところがミソで、安価に寝台車を使って疲れを残さず往復できる。個室も使えるのだが、残念ながら今日は満席、解放B寝台の上段を確保してある。4連休の前日だけに、この解放B寝台もなかなかとれなかったくらいなのだ。
売店で缶ビールを買って北陸に乗る。程なく発車、通過する駅を眺めながらビールを空け、上段のベッドにもぐり込む。明日は5:15着の魚津で下車する。

2002/05/03 (Fr)
4:45に目覚め、顔を洗っていると親不知を通過。海に写る朝日がとてもきれいでしばしぼーっと車窓を眺める。今日は晴れそうだ。
昨晩に空席案内を見たらB寝台は「×」だっただけに、よく乗っている。今回乗った1号車は、1つのベッドを除きカーテンが閉まっており、その空いている1席もリネンを使った跡があるので、糸魚川で下車した客が乗っていたのだろう。こんなに盛況の寝台車は、北斗星以来乗ったことがない。しばらくして車掌が起こしにきた。列車は数分遅れているらしく、5:23ころ到着らしい。

魚津に到着、肌寒いホームに降り立つ。切符を記念にもらおうとしたが断られた。残念。
朝早いだけに人影もまばらな魚津駅前を歩き、隣の電鉄魚津駅まで歩いていって見ることにする。高架に沿って歩き、一度減った商店が増えてくると電鉄魚津駅に着く。アーケード街があり、JR魚津より都会っぽい雰囲気を持っている。駅も汚いながらも駅ビルになっている。
その駅ビルを3階まで上り、年季の入ったベンチなどが置かれている駅窓口でフリーきっぷを買い求める。二日間有効で4400円。一日しか使わないのでちょっともったいないが、それでも4400円分は確実に乗るので良しとしよう。
下りの始発に乗り長屋で下車、荻生まで歩いて列車で電鉄黒部へ戻り、舌山までまた進んでまた電鉄石田へ戻る。毎度のことだが、朝は列車本数が多いのでたくさんの駅を訪問できる。
日が昇ってきて暖かい。持参のパーカーを畳んでリュックに詰める。遠く立山連峰が望め、写真で見たような白い頂が連なっている様子は、まさに「富山県」だ。

終点の宇奈月温泉で下車、歩いて数分の黒部峡谷鉄道宇奈月駅へ向かう。今日は朝から何も食べていないので、途中の売店でおにぎりを買っておく。
駅は、次に発車する列車に乗るため改札に並んでいる人でごった返している。乗れるか心配になったので、乗車券の販売窓口に急いで並ぶ。
この「黒部峡谷鉄道」は、宇奈月温泉を起点に、その名の通り黒部川の峡谷に沿って欅平というところまで続いている鉄道で、窓のない車両、いわゆる「トロッコ列車」が走っていることで有名だ。冬季は積雪を考慮し、鉄橋をはずして全線が運休となるあたり、敷設理由が電源開発なだけにかなり特殊な雰囲気を持っている。
乗りたい列車の普通車が無事とれた。この鉄道は定員制、つまり、人数がそろったらそれ以上は乗せない。安全上そうなっているようだ。数百円の料金を払うと窓付きの車両に乗れるが、せっかくここまで来たのなら、窓のある車両に乗っていたのではつまらない。
指定された4号車に行ってみると、何列か空いている。係員に聞いたが別に座ってもかまわないとのこと。ほかに人がいる窮屈な座席より自分一人で座れた方がいいのでそこに座る。カメラマンが記念写真を撮りに来たが、一人であることを告げるとバツが悪そうな表情で「撮らない、ですよね?」。撮りません。一人を撮ってもらってもつまらないし。
渓谷をゆっくり進む。4月の末に今期の運転を開始したばかりだが、やはり至る所に残雪が見られる。新緑が目に眩しい。この時期ならではの車窓だろう。晴れてもいて、絶好の行楽日和だ。
この鉄道には駅がいくつかあるが、一般の旅客が乗降できるのは途中の黒薙・鐘釣だけで、それ以外の駅はダムのほとりに施設があるだけで、ダムに勤務する人の専用駅なのかもしれない。さすがは電源開発を目的にしていた鉄道だけのことはある。
1時間ほどで鐘釣着。ここで下車し、鐘釣温泉に入ってみることにする。列車は一度バックして発進していく。13両もつないでいるからかホームの長さが足りず、分岐器を過ぎて停車しているようだ。
万年雪を眺めながら歩道を10分ほど歩き、崖の階段を降りると河原に湯気が立っている。ここ鐘釣温泉は、河原を掘ると温泉がわき出す、野趣あふれる温泉なのだ。
残雪を眺めながら清流のほとりで温泉。最高だ。が、入浴するにあたり大問題が。
・・・石を寄せて作ってある露天風呂には先客が大勢いるのだが、水着姿の人が多い。しかも、女の人・・・。さらに、ツアー客が大勢見物に来ていて、はっきり言って「衆人環視」で入浴になってしまう。
さすがに水着は持ってきていないので、入浴を断念し、河原の景色を眺める。痛恨。。。子供つれて泊まりに来ようと、固く心に誓う。
1時間ほどで戻り、後続の列車で欅平へ。さっき宇奈月から着いたばかりの団体さんが、もう宇奈月行きで戻っていく。鐘釣温泉見学のためだけにきたようだ。
深い谷をゆっくり走り、欅平に着く。人が多く、ここでも団体さんが目につく。しばらく散策して、戻る列車のきっぷを買う。今度も一般車に乗る。
心持ち、来たときの列車よりスピードが出ている気がする。トンネルで露出を上げて写真を撮ると、ヘボながらうまく流れてスピード感がある写真になった。

目が痛いほどの新緑の中を走り、昼過ぎに宇奈月に戻る。朝は1〜2台しか車が停まっていなかった駐車場が今は満車で、空き待ちの車が列をなして渋滞している。みなトロッコ目当てのようで、次の列車は満席になっている。
常々思うが、景色のいいところへ景色を見に来るのなら、せめて渋滞が予想できるところくらいは列車やバスを使うことができないものだろうか。たとえば黒部や魚津で車を停め、列車で宇奈月へ向かうとか。奥多摩の日原鍾乳洞のあたりが休日だけ似たようなことを強制していたような覚えがあるが・・・。
腹が減ったのでそば屋で軽く飯にして、次の富山方面の列車に乗る。特急列車なので特急券を買い、改札を通ろうとしたら改札の係員に言われた。
「特急料金いらないのに・・・」
今日使っているフリーきっぷをよく見ると、自由席に限り特急料金不要と書いてある。よく読んでおけば良かった・・・。100円損した。
トロッコは吹きさらしなのでさすがに少し寒かったが、陽が照っているこの時間帯は暑いくらいだ。ジリジリとした日差しを頬や首筋に感じる。列車は冷房が入っている。
東三日市・若栗・経田と、また駅をいくつか乗り降りし、今朝も降りた電鉄黒部からはまた特急に乗る。当たり前だが今度は特急券は買わない。
やってきたこの特急、どこかで見覚えが・・・。クリーム色のボディに赤い帯、正面から見ると妙にいかついデザインで好みが分かれるところ、そう、西武鉄道の初代レッドアローだ。富山地鉄へ売却されたとは聞いていたが、こんなところで再会できるとは・・・。
懐かしいオレンジ色の仕切扉、大きな窓、青いシートモケット、それはまさしく西武特急だ。高校の頃を思い出す。
西魚津近くで海が少し見え、そのまましばらくJRと併走して中滑川で下車する。すぐの列車で折り返し早月加積下車、古い駅舎を眺め、やはり古い駅舎の残る隣の浜加積まで、約1.5Kmを歩く。乗りたい列車は19分後なので少し急ぐ。
暑い。日差しが痛いが、袖をまくらずにはいられない。列車の時刻の関係で、あんまりゆっくり歩いてもいられないので、早歩きするのでなお暑い。水田の中をシマヘビが泳いでいる。気持ちよさそうだ。
後続の列車に乗り、越中三郷で下車、ちなみに「さんごう」と読む。関東に住んでしばらくすると、どうしても「みさと」と読みたくなるが、全国的に見ると「みさと」は少数派なのだ。
どういうわけか駅舎に書いてある駅名が左右逆向きで、そんなに昔から書き換えてないのか! お金がないのか雰囲気を大事にしているのか・・・。私としては大歓迎なのだが、あまりに資金に窮しているようだと先行きが不安になる。
缶コーヒーを買ったら、ホットが出てきた。自動販売機をよく見ると、確かに赤い「HOT」の表示が。ただでさえ暑いのに・・・。仕方がないので買い直す。疲れているのかな・・・。

折り返し立山線の列車に乗る。途中の寺田で本線と立山線に分かれるが、ここで3列車が離合する。元・西武レッドアローと元・京阪テレビカーが顔を合わせ、なかなかにぎやかだ。
立山線をしばらく走り、釜ヶ淵下車。ここもかなり古い駅舎が健在で、写真に納めようとしたが、駅前で高校生の女の子が数人でアイスを食べ始めた。どこで食べようと構わないが、「駅を撮る」というのがかなり奇特な行為なので、ちょっと気後れする。ずいぶん前に似たようなケースで、連れの男に写真を撮る理由を聞かれたことがある。
戻って五百石下車。左右対称の古い駅舎で、まっすぐ延びた駅前通の先に立山連峰が望める。駅前の景色では自分の中でベスト10に入るような景色だ。
市街地を歩き、隣の榎町へたどり着くとすぐに列車が入ってきた。時刻表を急いでみると、土休日運転の臨時列車だ。知らなかった。飛び乗り、さっきも通った寺田で下車する。
古い駅舎が数多く残っている富山地鉄だが、今日まで乗ったことがなかった。今日乗った区間を合算すると、残る国内未乗鉄道は50Kmを切り、踏破率も99%を超える。
折り返し列車に乗り、上滝不二越線接続の岩峅寺で下車する。古い温泉旅館のようなたたずまいの駅舎だが、乗り降りはほとんど無く閑散としている。小腹が減ったので駅前の雑貨店でパンを買い、人のいない駅待合室で食べる。
上滝不二越線の列車で月岡下車。同名の駅が故郷・新潟県にあるが、あたりの雰囲気が結構似通っていて、水田が広がり遠くに雪山が望め、駅舎は無人の木造だ。ただ、新潟の方の「月岡」駅は、最近改築されて味気ないものとなってしまったが。
隣の大庄まで歩く。時刻は18時、あたりの水田から蛙の声がこだまして聞こえてくる。近隣の農家では、田植えが終わったのを労うのか、庭先に食事を用意して大勢で食べている。懐かしい。記憶にある夏休みの夕方はこんな感じだった。あとはカブトムシとスイカが加われば、そのまま目をつぶって当時の思い出に浸ってしまいそうだ。
ゆっくり歩いて大庄駅の古い駅舎で休憩する。18時半、さすがに暗くなってきた。今日はけっこう歩いた。おおざっぱに数えて10Kmくらいか。フルマラソンの1/4に満たないが、道を詳しく知らないところを時間制限付きで歩くのは疲れる。好きでやっているのだが。

富山へ出て、土産を買ったのち今晩の上野行き北陸の寝台券を取る。残念ながら個室は満員で、開放式はまた上段、下段が欲しかった・・・。通路でビール飲むの、嫌いなんだよね。富山駅にはPCが置いてあり、「駅すぱあと」が無料開放されている。ライセンス大丈夫かな?
JRに乗り換える。高岡から延びている鉄道の経営母体が最近変わり、一応再訪しておこうかと思っているのだ。その前に、未下車に西高岡駅へ寄り道。すでに日は暮れ、ベッドタウンらしいことしかわからない。
高岡駅前から新湊市の方へ延びている万葉線は、つい先日の2002/3/31までは「加越能鉄道」だった。この会社が経営難で鉄軌道事業を手放し、地元自治体が出資する第3セクター「万葉線株式会社」として再スタートしたのだ。
一駅歩き、片原町から乗る。以前乗ったのは4年前、あまり変わっていない印象を受ける。庄川を渡り、富山新港に面した終点の越ノ潟までは約40分、客が多くて15人程度では赤字にもなろう。越ノ潟から先は渡船で港を横断しバスで富山へ抜けられるが、すでに21時を回り、富山にたどり着けるか不安なのでこのまま引き返す。
途中、「六渡寺」という駅があるが、読みが「ろくどうじ」となっている。私が作っている鉄道DBでは「ろくどじ」として収録してある。ミスを発見してしまった。。。

今日は風呂に入っていない。予定していた鐘釣温泉に入れなかったのが痛い。汗をかいたので体がべとつく。明日自宅でシャワーを浴びよう。
高岡は思ったより街が広く、しかも道が広い。特急がほとんど停まるので小さくはないと思っていたが、想像以上だ。糀屋さんがある街は、もうほとんど無いのではないか。
高岡から富山へ戻る。特急が入ってきたのでこれを使う。JR西日本が誇る新型車両、列車名が「サンダーバード」で、念のために言っておくが濃い緑色ではない。「雷鳥」の英語訳だ。
暖色系の証明、落ち着いた雰囲気の車内設備など、実に好感が持てる。雰囲気だけでなく、各座席のスポットライトや前座席背もたれのテーブルに加えて肘掛け下からもテーブルが出てくるなど、機能面もすばらしい。千葉で走っている「ビューわかしお・ビューさざなみ」の車両がオモチャに見える。そのくらい質感が違う。
富山に22:30着。今晩の宿、上野行き「北陸」は23:06発、富山で夜行に乗る前といったら、駅前で食べるラーメンだ。トラックで来ている店が、終バスが出たあとのバスターミナルでいすを出して営業している。過去に2度ほど富山から夜行を利用しているが、そのたびお世話になっており、結構うまかったと記憶している。
注文が通っておらずなかなか出てこなかったが、待たされたぶん、頼んだ大盛チャーシューは格別。10分で平らげ、駅ホームへ向かう。
駅の売店はさすがに閉まっており、ビールが買えない。仕方なく列車内の自動販売機で買い、通路の補助いすで空ける。今日のつまみはぶりのすし、さっき高岡で買っておいた。ますのすしとは違い魚の上にかぶら漬けが載っていて、これはこれで旨い。ラーメン食べた後なのでちょっと食べ過ぎた感が・・・。
寝台上段で着替え、横になる。

2002/05/04 (Sa)
5:45に車内放送で目覚める。誰もいない洗面所で顔を洗っていたら、ゾロゾロと人が集まってきた。早く起き出してきて良かった。
体がだるい。疲れが抜けていないのかもしれないが、まだ三日も休みがある。よかったー。
急に口寂しくなり、昨日間違えて買ってリュックにしまってあったホットの缶コーヒーを飲む。ぬるい。まずい。
今日は薄曇り、暑くはなさそうだ。私のベッドの下に大きなトランクが置いてある。これから成田へ向かうのだろうか。どうでもいいが、靴は履きにくいし階段は昇降しづらいし、迷惑だ。
上野には定刻の6:19着。このまま帰ってもいいが、一昨日の夜食べ損ねたラーメン屋、一蘭へ行ってみる。確か24時間営業だったはずだ。
誰も並んでいない店のドアを開け、妙なボタンを見て空いている席へ座る。1個100円のゆで卵を頬張り、そこかしこに貼ってある蘊蓄を読んでいたらラーメンが出てきた。思ったよりあっさりしていて旨い。夜行に乗る前では混んでいて入りにくいのが難点だ。
新橋乗り換えで自宅へは7:30着、まだみんな寝ていた。

夜行特急「北陸」

古色蒼然1−舌山にて

万年雪

鐘釣温泉

トロッコ列車

新緑の中を

古色蒼然2−経田にて

レッドアロー!?

プール

地鉄の主力

万葉線電車

ぶりのすし弁当