大井川鉄道の駅を巡る 2007.05.06〜07

大井川鉄道の駅を巡る

■2007/05/06(Su) 疲れの中出発・・・

今日はゴールデンウィーク最終日だがあいにくの雨、そんな日に家族でディズニーランドへ行ってきた。ここで年に一度催される、妻の会社の労働組合が主催する親睦会が今日だったのだ。ちなみに参加するのは今回で3回目、その三回とも雨の日という、見事なまでの外しっぷり。よほどの雨男ないし雨女が我が家族にいるに違いない。
連休最終日の雨降りということもあり、ほとんどのアトラクションで30分程度の待ち時間で回れ、長女はご機嫌だ。おかげで靴がずぶ濡れ、結構な距離を歩いたので足がだるい。
19時過ぎに自宅に着く。眠りたいが、明日は代休で大井川鉄道の駅を巡るつもりでいる。風呂に入って家の中を動き回って眠気を飛ばす。
自宅を23時前に出る。今回は東京駅前を23:50に出る浜松行きの夜行バスを利用する。自宅近くのコンビニで飲み物と明日の朝飯を買っておく。めちゃめちゃ眠い。今朝は6時起きでディズニーランドへ出かけたから仕方ないか。
地下鉄を日本橋で下車し、東京駅八重洲口のバス乗り場へ向かう。連休を東京で過ごし、各方面へ帰るのだろうか、深夜にもかかわらず大勢の人がバスを待っている。
私が利用する浜松行きのバスは、おそらく「夜行バス」として運転している系統では運転区間が日本最短、新幹線なら1時間強で着く距離を6時間かけて走る。
そんな短距離のバスだが、2階建てトイレ付き3列シートとなかなか立派。だがガラガラなのが気になる。

■2007/05/07(Mo) 未明の静岡から大井川鉄道へ

やはり疲れていたらしく、高速道路を走行していることに気付かず熟睡、携帯のアラームで目が覚めると静岡市内を走っている。程なく静岡駅に到着するがまだ4:30、バスに乗って5時間弱しか経っていない。
人のまばらな静岡駅から始発の浜松行きに乗る。新鋭の313系電車は静かで快適だが面白みに欠ける。113系電車が懐かしい。
旧型客車がズラリ
旧型客車が留置されている <新金谷駅>
金谷で降り、宿場町らしく史跡の多そうな街中を、大井川鐵道の新金谷駅まで歩く。およそ30分で堂々とした構えの新金谷駅に到着、駅舎をひとしきり撮影し、切符を買う。今日は寸又峡フリーきっぷを使う。金谷−奥泉間の鉄道と千頭=寸又峡温泉間のバスに二日間乗り放題で4,800円、高いか安いかは判断が分かれそうだが、私のように乗ったり降りたりを繰り返す向きには間違いなく安い。ついでに記念の硬券入場券も買っておく。
構内には旧型客車がたむろしており、思わず撮影する。SL列車に使用する車両だろう。ここ大井川鐵道はSL列車の運転で全国的に有名で、私も今日昼前に乗ってみようと思っている。丸屋根の客車は日本広しといえどもけっこう希少価値ではないかと思ったりする。
やがて始発の千頭行きがやって来た。南海ズームカーが静岡の地で健在、乗り心地を堪能する暇もなく日切で下車し隣の代官町まで歩く。
南海21000系電車"ズームカー"
元南海の名車、50歳だがかくしゃくたるもの <塩郷駅>
やってきた上り電車は元近鉄の吊りかけ電車。重々しい音に酔いしれる。先ほどきっぷを買った新金谷で下車し、待合室で朝食のおにぎりを腹に入れ、金谷で折り返してきた先ほどの吊りかけ電車にまた乗る。こんどはデジカメの動画機能で音も録る。あぁ、音を採集するようになるとディープな世界な気がしてくる。
しばらく乗って神尾で下車する。あたりに人家はなく廃屋のような建物が一つあるだけで、目の前は大井川の絶景が広がるこの秘境駅で、ただ一人ホームからの眺めを楽しむ。一応通勤通学時間帯だが誰もいない。

折り返しの上りはまさに通学列車で、高校生でいっぱいの車内を見てマナー不在なのにあきれる。席に荷物置くわ、床に座り込むわ、ひどいものだ。
下車した五和駅は古い木造駅舎が健在で嬉しくなる。小学生が大勢降りていくのも微笑ましい。小学生で定期券を持てるのが、何となくうらやましい。

■どっ、土砂崩れ?!

折り返し千頭行きに乗ったところ、途中で運転士のアナウンスが入った。気にも留めずにいたら聞き捨てならない単語が聞こえてきた。・・・「土砂」に「不通」に「代行」?
なんと、家山の先で土砂崩れの恐れありとのことで、家山−地名間がバス代行になったらしい。昨日の雨のせいだろうか、なんということだ。今日はわりあい天気が良さそうだというのに。

まずはまともに代行バスが動いてくれると信じることにし、当初の予定を崩さず行くことにする。代行バスに乗り換えとなる家山で下車すると、駅前に観光バスが停車中、どうやらこれに乗るようだ。なかなか発車しないと思ったら、軽トラの荷台に高校生が数人乗っかってきた。どうやら、代行バスは不通区間の抜里駅を経由しないらしく、抜里から駿河徳山にある高校へ通う生徒をここまで運んできた近所の人のようだ。

鉄道とは段違いに整備された道路をバスは快調にとばす。本線の線路がこんな有様だが、さらに奥地にある井川線は大丈夫だろうか。
天気はどんどん良くなるが、どうやら今日中の不通区間の復旧は無理らしい。係員によって状況の説明が異なり、「土砂崩れ」「土砂崩れの恐れ」「落石」等々、情報が錯綜している。
恋金橋
70Kgの人が2m間隔で110人まで渡れる、
って・・・信じられません。。。 <塩郷駅頭上>
地名でまた鉄道に乗り換え、大井川に面した小駅の塩郷で下車する。すぐ近くに歩行者用の吊り橋が掛かっており、長さも高さもかなりのもので、渡ってみたい衝動に駆られる。次の列車まで定刻なら30分ほどあるので、渡ってみることにする。
近くの細い道を登り、橋の袂に立つ。対岸が遠く感じ、緩やかに弧を描く橋がやたらと長く感じる。下から見るより高さも感じ、かなり怖い。
デジカメの動画機能を開始させ、意を決して渡る。揺れる揺れる、大人が何人も同時に渡るのはリスクが高そうだ。
しかし、平日の真っ昼間に吊り橋を渡るいい年した男は怪しい。不審者として通報されないか不安になる。
鬱蒼とした森の中にある対岸まで渡り、折り返す。行きと違って慣れもあるのか、それほど怖さを感じない。

20分ほどで駅へ戻り、後続列車を待つが、やはり定刻になってもやってこない。それどころか、もっと早い時刻に来るはずの対向列車もまだ来ていない。
果たして15分遅れで来た列車は、30分遅れの対向列車と駿河徳山で交換した。ダイヤがかなり乱れているが、どうにか戻そうと苦心している様子がある。
その駿河徳山で下車、わりあい開けていて古い建物も残る駅前を散歩する。高校が近く、朝夕は混雑しそうだ。
折り返しの列車は十数分遅れ、また地名と家山でバスと列車を乗り継ぎ、福用で下車する。なにやら装飾めいた駅舎で面食らうが、海外の提携鉄道の駅舎を模したもののようだ。一駅戻り大和田でも下車する。大井川沿いで、青々とした桜の木の木陰で次の列車を待つ。
SL急行 "かわね路"
蒸気機関車が通過。乗ってみたかったが・・・ <大和田駅>
突然、汽笛が聞こえて驚き、カメラを構えて待っていたら、しばらくしてC10型蒸気機関車牽引のSL列車がやって来た。今日はこの時刻の運転はないはずで、おそらく家山まで運転する団体列車だろう。煤の匂いを残して走り去って行くのを目の当たりにして、今日の土砂崩れ恐れを改めて恨めしく思う。SL急行、乗ってみたかったなぁ。

次の列車まで小一時間をまったり過ごし、今日三度目の家山・地名でのバスと列車の乗り継ぎを経て千頭へ向かう。定刻で動いていて、ほぼ遅れは吸収されたようで驚く。立派なものだ。元々余裕時分があるのかもしれないが、回復させようとする気がなければずっとダイヤ乱れが続いているだろう。

■無事・・・に、トロッコ、もとい井川線へ

遅れなく千頭へ着き、異様に閑散とした駅前から寸又峡行きバスで奥泉へ向かう。乗客は私一人、車窓にはヘロヘロとか細い線路が続いていくのが見える。あれが井川線、千頭の駅では特に遅れや運休の掲示は無かったので大丈夫だろう。
10分ほどで古代住居を象った公衆トイレの前にバスは停車する。どこが駅か、と一瞬戸惑うが、階段を下ったところに駅への案内が見える。
シャッターの下りた商店の前、従業員通路のような幅の道を進んだところにある奥泉駅は、思いの外立派な待合室を持っており、寸又峡温泉への乗換駅だけのことはある。駅員もいるが昼休みらしく歯磨きしている。
昼時なので、食事をできる店か食べ物を売っている店を探しに辺りをぶらついてみるが、連休明けの月曜日とあって開いている店は皆無、仕方なしに昨晩買っておいたカロリーメイトを缶コーヒーで流し込み昼食とする。

目の前にある線路とホームが興味深い。線路幅は一般的な鉄道と同じなのだがホームが異様に低く、数センチ程度しかない。元々軽便鉄道的な当路線ではこれが当たり前で、車両が小さいのでこれで十分なのだ。
川のせせらぎが聞こえる。ホームの向こうの崖下は大井川、他に音のするものがない。ふいにアナウンスが入る。件のバス代行の影響で、この路線もいくらか列車が遅れるようだ。
発車時刻が近くなって、私の他に3人の客が現れた。若い女二人に年配の男、雰囲気からするに親子のようだ。接阻峡温泉までの往復切符を買っている。
程なくしてディーゼル機関車に牽かれた列車がやってきた。乗ろうとすると車掌が走ってきてドアを開けてくれる。自動ではないのだ。また、頭をぶつけないよう注意を促される。それほどに小さい車両なのだ。3両繋いでいる客車には、予想に反して観光客がけっこう乗っている。
ゆっくり走る列車の窓を開け、車窓を満喫する。トンネルの壁が間近に迫りなかなか怖い。

次のアプトいちしろで下車する。ここから先の接阻峡温泉までは、長島ダム建設時にこれまでよりずっと高い位置に新線が敷かれ、急勾配区間は「アプト式」と呼ばれる特殊な登坂方式が採用されたのだ。この方式、かつては国鉄が軽井沢の辺りで採用していたが、昭和38年に通常の登坂方式に切り替えてからは姿を消していた。あえて廃線にせず、特殊な方式を採用してまで存続させた大井川鐵道の熱意には頭が下がる。
ちなみにアプト式とは、線路の間に頭が歯車状のレールを設け、それに合うような歯車状の車輪で登っていく方式の一つで、専用の機関車が必要となる。二回りくらい背の高い専用機関車が連結される。乗客が降りてきて連結シーンを見ている。私も一緒に見る。
アプト式機関車連結風景 アプトいちしろ駅
アプト式機関車連結シーン 乗客も興味津々
 <アプトいちしろ駅>

列車が行ってしまうと、元々人口のほとんどない地域なだけに静寂が辺りを包む、かと思いきや、近くのダム湖で補修工事をやっているらしく、潜水夫の声が放送されている。コーホー、コーホー、ゴボゴボ。およそ山間に似合わない音が辺りに響き渡る。
深みのある青緑色をしたダム湖に、古めかしい吊り橋が架かっている。鉄でできた構体を持つその橋は、かつて鉄道橋として使用されていたものらしく、由来や貴重なものである旨の説明が傍らに設置されている。橋があれば渡ってみたくなるのが人情で、当然のごとく一往復する。

この駅の手前から、アプト式開通以前の旧線跡を利用したハイキングコースがあり、いきなり真っ暗闇のトンネルで始まるそのコースへ行く行楽客のために、駅に貸し出し用の懐中電灯がいくつかおいてある。けっこう長いハイキングコースのようで、旧線跡と言うこともあり興味津々。子連れで来てみたいが、次女は暗いところがすこぶる苦手で、泣き出してしまいそうなので無理だろうか。

井川線 車窓
車体もトンネルも小さく迫力満点
<奥泉−アプトいちしろ間>
戻って沢間駅でも下車する。古い駅舎は無人化されて久しいようで、かなり荒れている印象を受けるが、同好の方が設置したと思われるノートが吊してあり、訪れた人が一筆書き記している様子がある。辺りはお茶畑が多く、近くの製茶工場から炒りたてのお茶のいい香りがする。
ここからはかつて森林鉄道が延びていたはずで、細い道が続いているのがおそらくその跡地を利用した道路なので数百メートル辿ってみる。脇にゲートボール場があり、年配の方が椅子に腰掛けて話をしているのを見かける。

折り返して川根小山へ向かう。やってきたのは接阻峡温泉止まりの区間列車で、見たところ客が全く乗っておらず、私一人を乗せて発車する。そんな貸し切り状態の列車ではあるが、土本到着直前で車掌から観光案内が入る。土本駅手前に架かる橋の周辺は「三叉峡」と呼ばれ、三つの川が一つの流れにまとまるところであることからそう呼ばれているらしい。また、土本駅周辺には「土本」姓の方が住んでおり、最近まで他の地域と道路が繋がっておらず井川線が唯一の交通だったそうだ。

川根小山は真新しいログハウスの駅舎になっている。近くに古いダム跡があるらしいが、折り返し列車はすぐ来るので駅で待つ。すぐ崖下にお茶畑があり、収穫中らしく何人かの人がいる。
小山から乗った列車は、土本へ向かう途中のトンネルで急停車。何が起こったかわからず、窓を開けて前を見てみるがよくわからない。トンネルでハイカーを轢いた、なんてことは勘弁だ。
どうやら落石があったらしく、特段支障にならないとのことでそのまま発車した。何とも長閑だが、ここで足止めを喰らったら道は近くにないのだから手も足も出ない。
土本駅へ列車が到着
山間の小さな駅に小さな列車が到着 <土本駅>
土本で降りる。裏手に川へ下りる道があるのでちょっと河原に下り、三叉峡を歩いてみる。水面に近いところから見ると、あたりの崖の迫力が違う。軽便規格の鉄道橋も巨大な建造物だと感じられる。
岩の転がる河原をぶらついたら疲れたので駅で休む。井川線を車で撮影しに来た人がいて気を遣う。写り込んでも悪いし、かといってあんまり避けていても怪しい人だし、どうしてよいものか。

1時間ほどしてやってきた千頭行きに乗り、川根両国で降りる。ここは井川線の基地があり、車両がたむろしている。駅の出口がどこにあるのかわからず、近くのアパートの敷地を通り抜けて構内から出る。
千頭までは歩いて20分ほどで着く。まもなく18時、空腹なので店を探すが、ろくに店が開いていないのは昼過ぎに通ったときと変わらず、仕方なしに近くで唯一空いている雑貨屋で菓子パンを買って列車に乗り込む。列車は元近鉄特急、普通列車としては破格の待遇の車内で菓子パンの夕食、駿河徳山で高校生が乗って来てわりあい混んできた。

■締めは温泉

川根温泉
道の駅併設の川根温泉
地名で代行バスへ乗り継ぎ、笹間渡駅前で降りて近くの温泉へ向かう。道の駅併設の温泉で、塩化物泉で温まる。シャンプー類が備え付けで19時までなら食事ができるのもいい。宿泊もできるらしく、また来たいと思わせる雰囲気を持っている。現中日監督の落合氏がたびたび訪れたらしく、コメントとユニフォームが飾ってあるが、そのユニフォームが日ハム。そういえば引退前の数シーズン所属していたなぁ。

きれいに整備されているが明かりが少なく真っ暗な駅への通路を歩き、駅前で代行バスを待つ。案内役の鉄道員さんに聞いてみたところ、件の土砂崩れの恐れがある区間は危険な岩肌を取り除く工事を行うとのことで、2〜3日は代行が続きそうだとのこと。勤務ローテーションもめちゃくちゃになっているようで、同僚とおぼしき人と愚痴をこぼしあっていた。どこも有事のローテーション破綻は同じだなぁと痛感する。

代行バスは遅れていたが、星を眺めたり鉄道員さんの話を聞いていたら時間は気にならず、むしろ名残惜しい気持ちでバスに乗る。今日何度目かの訪問となる家山駅で列車に乗り換える。また元近鉄特急で、こんどは車内がパンや飲み物のゴミで汚い。高校生の通学輸送を終えた後の編成だけに、致し方ないか。できれば元南海のズームカーでの夜を楽しみたかった。

列車はほぼ定刻に終点の金谷に着く。東京までの乗車券を買うべく窓口に申し出たところで静岡行き列車が来たので、駅員から乗車駅証明書を貰い飛び乗る。通勤時間帯なので席がさらっと埋まっている。
朝は昨晩買っておいたコンビニおにぎり二つ、昼はカロリーメイト一箱、晩ご飯はおつまみソーセージと菓子パン、余りにも酷い食事だと自分でも思う。静岡でも弁当が売り切れていてありつけず。まったく食事に運がない。
何だか物を食べる気が失せたので、何も買わずに新幹線に乗り込む。ひかり号だがガラガラで、乗った車両は数人しか客がいない。月曜の夜の上り、混むとは思っていないが、これほどとは。

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